こんにちは。アジア・アライアンス・パートナーのグラフです。
タイは、世界的に非常に人気の高い観光国であることは皆さんが知るところだと思いますが、過去のタイの医 療事情に関する記事(令和3年4月 Vol.80)でもご紹介した通り、病気治療や手術、検査などのための 旅行「メディカルツアー」の目的地としても、タイは国際的に非常に高い評価を受けています。
近年では、観光だけではなく、医療を目的とした旅行者の数も増えてきています。タイの国際メディカルビジネ スは大きく成長しており、海外から訪れる外国人患者の年あたりの売り上げは 10 億バーツ(約 38 億円) 以上に上ります。
では、タイはなぜ国際的にメディカルハブとして有名なのか、タイ政府はなぜ、メディカルハブとして世界的に知 られたいのか、についてお話しします。
タイがメディカルハブとして世界的に認められたきっかけ
タイの医療ビジネスは、先進国に引けを取らない水準であると言っても過言ではありません。
医療ビジネスが大きく進歩することになったきっかけは 25 年前、1997 年に起こったアジア通貨危機です。こ れにより、タイ経済は大きな影響を受け、国内の高級病院を受診するタイ人患者数は大きく減少しました。そ の状況を打開するために病院が考えたのが、外国人旅行者への医療サービス提供でした。通貨危機によりバ ーツ安になったため、タイの病院では海外よりも安く医療を受けられる状況が生まれました。この状況をいかし、 海外からのお客様にプレミアムな医療を提供し、ビジネスとして成長を遂げました。
同時に、タイ政府も、悪化した国内経済の回復のため、裕福な外国人旅行者にタイの高級病院を利用して もらおうと、最先端の医療技術やプロフェッショナル人材を確保し、一貫した医療が受けられる国際的な「メディ カルハブ」になることを目指す方針を打ち出しました。そのために、政府は医療関連で様々な支援政策を掲げ ました。
世界の医療事情との比較
1 医療の質
医療組織と医療プログラムを評価する「JCI(国際医療施設認定合同機構)」というアメリカの組織がありま す。JCI の基準は世界で最も厳しいとされており、JCI の認証を取得しているということが病院の質の保証とな ります。タイには、JCI 認証を得た医療機関が 61 ヶ所あり、この数字はアジアで1位、世界でもトップ 10 に 入ります。
国別の JCI 認証を取得した病院の数
国 | タイ | 日本 | 韓国 | 中国 | マレーシア | シンガポール | インドネシア |
---|---|---|---|---|---|---|---|
JCI 認証済み病院数 | 61 | 30 | 9 | 48 | 17 | 5 | 27 |
2 治療費
世界のメディカルハブになるには、医療の高い質と安全性、先端技術やプロ人材を確保するだけでなく、リーズ ナブルな治療費も大変重要なポイントです。下記のデータを見ると、タイの治療費は他の国よりも比較的安価 であることがわかります。
各国の治療費(2019 年)
手術内容 | アメリカ | タイ | シンガポール |
---|---|---|---|
冠状動脈形成術 | 3,670,000 円 | 540,000 円 | 1,740,000 円 |
心臓バイパス手術 | 16,020,000 円 | 1,950,000 円 | 2,240,000 円 |
人工股関節置換術 | 5,250,000 円 | 2,210,000 円 | 1,810,000 円 |
胃バイパス手術 | 3,250,000 円 | 2,180,000 円 | 1,780,000 円 |
子宮摘出術 | 2,000,000 円 | 470,000 円 | 1,350,000 円 |
レーシック手術(両目) | 520,000 円 | 300,000 円 | 490,000 円 |
歯科インプラント治療 | 320,000 円 | 220,000 円 | 350,000 円 |
豊胸手術 | 830,000 円 | 450,000 円 | 1,090,000 円 |
https://www.krungsri.com/en/research/industry/industry-outlook/Services/Private-Hospitals/IO/io-Private- Hospitals?fbclid=IwAR3EvXQ0t3p1GCVC3zIeqP_-OvZp_BXX0woeyU95wjLGonsFqMYpy6kNYrI
患者がどの国の病院で医療を受けるか検討する際、各国の医療費も重要な項目です。タイの医療の質と治 療費のバランスが優れているため、タイの病院で医療サービスを受ける海外からの患者数は毎年増えてきていま す。
タイで治療を受ける外国人患者数の動向
海外からの患者数が増えるにつれて、売上も大きく増加しています。2018 年のタイの病院の外国人患者か らの売上は 2010 年の 53 億バーツ(約 197 億円)に対し 322 億バーツ(約 1,200 億円)と、約 6 倍に増加しました。
外国人の患者を主なお客様とするタイの病院の例
バンコクにある「バムルンラート病院」は東南アジアで最大の民間病院であり、国際的に有名な病院の 1 つで す。新型コロナウイルスが世界的に流行する以前、同院の売上の 6 割、約 100 億バーツ(約 380 億円) 以上は、外国人患者でした。患者の国籍は、クウェート、アメリカ、カタールといった中東の国々を中心に、世界 16 か国からバムルンラート病院の医療サービスを受けに訪れていました。
バムルンラート病院の国内・海外の患者の割合の動向
最後に
この2年間は、新型コロナウイルスの影響により出入国の制限がかかり、タイの病院の外国人患者は大幅に 減少しました。ですが、ようやく新型コロナウイルスの兆しが見えてきており、収束と共にメディカルツアービジネス は復活、外国人の患者が質の高いタイの医療サービスの需要が戻ってくると考えられます。今後もメディカルツ ーリズムは、タイの主要ビジネス分野として成長が期待されます。また、タイ国内を見ても、高齢化が進んでお り、医療、介護、ヘルスケアの分野には高い関心が向けられています。この分野について高い技術、サービスを 持つ日本企業の皆様も、タイの医療業界にも目を向けてみてはいかがでしょうか。