HOME > ビジネスニュース > シンガポールのメドテックの現状と未来

シンガポールのメドテックの現状と未来


ビジネスニュース

シンガポールのメドテックの現状と未来

 こんにちは。アジア・アライアンス・パートナーの柴田です。

 シンガポールは、世界有数のメディカルテクノロジー(メドテック)ハブとして急速に成長しています。この成長は、政府の支援、強力なインフラ、高度な研究開発(R&D)環境に支えられています。この記事では、シンガポールのメドテック産業の現状と未来について詳しく紹介します。

メドテック産業の現状

 シンガポールは、医療機器の設計、開発、製造においてアジアの中心地として位置付けられています。国内にはメドテック企業が 400 社以上あり、1 万 6,000 人を超える雇用を生み出しています。

 近年の同分野の成長は顕著であり、2022 年の生産高は 190 億シンガポールドル(約 2 兆 2,700 億円)を上げており、2021 年から約 20 億シンガポールドル増加しています。更に 2012 年比では約 4 倍にまで拡大していることから、市場の急速な成長が見て取れます。

このメドテックの成長には以下の要因が上げられます。

  1. グローバル企業の進出
     メドテック分野の大きな柱となっているのが、海外ヘルス企業の誘致です。国内には現在、メドトロニック(本社:アイルランド)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(本社:アメリカ)、バクスター(本社:アメリカ)など、同分野の主要な多国籍企業が数多く拠点を構えています。現在、シンガポール国内には 50社超が地域拠点を設置しており、35 社超の多国籍企業が工場を置いています。
     また、研究開発(R&D)拠点の誘致も進んでいます。2023 年 10 月には顕微鏡大手のドイツのライカマイクロシステムズが 8,200 万シンガポールドルを投じて手術用顕微鏡の製造・研究開発拠点を設置。同年 12 月には心臓ペースメーカーや高度患者管理システムの製造・販売を手がけるドイツの医療機器メーカーのバイオトロニックが、総延べ床面積2万平方メートルの製造・研究開発施設を開設しました。
     
  2. 政府の支援
     シンガポール政府はメドテック産業を重要な成長分野として位置づけ、様々な支援策や政策を導入しています。例えば、研究開発(R&D)に対する補助金や税制優遇、スタートアップ支援プログラムなどが含まれます。
     以下に補助制度、支援プログラムを行う機関を紹介します。
     
    ・ASTAR(Agency for Science, Technology and Research): ASTAR は、科学技術の研究を推進し、メドテック企業への資金援助や研究施設の提供を行っています。
     
    ・National Research Foundation (NRF): メドテック分野を含む様々な分野の研究開発に対する資金援助を提供し、スタートアップ企業や研究機関との連携を促進しています。
     
    ・SGInnovate: ディープテックスタートアップに対する投資や支援を行う政府機関で、メドテックスタートアップにも積極的に関与しています。資金提供だけでなく、メンタリングやネットワーキングの機会も提供しています。
     
    ・Health Sciences Authority (HSA): シンガポールの医療機器や医薬品の規制機関であり、新しいメドテック製品の迅速な承認をサポートしています。また、企業が規制要件を理解し、遵守するためのガイドラインやリソースも提供しています。
     
  3. 研究開発の強化
    シンガポール政府では、研究機関と大学が連携した高度な R&D を推進しています。国内の「バイオポリス」や「フュージョノポリス」などと呼ばれる研究拠点は、シンガポール政府が設立、運営を支援しており、ライフサイエンス分野における研究開発の推進を研究資金の提供や税制優遇を通して積極的に行っています。
     
    ・バイオポリス:ライフサイエンスとバイオテクノロジーの研究・開発の中心地であり、多国籍のライフサイエンス企業、研究機関、大学などが集まり、共同研究やイノベーションを促進する環境を提供しています。最先端のラボ、オフィス、会議室や商業化支援施設が備わっており、研究者や起業家が新しい医療技術やバイオテクノロジーの発展を目指して共同作業を行います。
     
    ・フュージョノポリス:科学技術分野の研究者、イノベーター、企業が集まり、クロスディシプリン(異分野間)の研究とイノベーションを推進する場所として設立されました。さまざまな業種の企業や研究機関が相互に連携し、新しい技術や製品の開発を進めています。
     

シンガポールのメドテックの未来

 シンガポールのメドテック分野ですが、上述の外資企業の誘致や政府の積極的な投資により今後も堅調な成長が予測されています。この分野において、特に以下のトレンドに関心が集まっています。

  1. デジタルヘルス
     シンガポールでは、ヘルスケアのデジタル化と技術革新を通して、医療の質の向上と効率化を目指しています。具体的な取り組みの例としては以下が挙げられます。
     
    ・健康テクノロジーの推進:シンガポールでは、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ分析、クラウドコンピューティングなどの先端技術を活用した健康テクノロジーの研究開発が盛んです。これらの技術は、医療診断、治療、健康管理の各段階での効率化と精度向上に寄与しています。
     
    ・インフラの整備:シンガポールでは、デジタルヘルスのインフラ整備に力を入れています。例えば、電子健康記録(Electronic Health Records, EHR)システムの導入やデータの標準化、相互運用性の向上を推進しています。これにより、医療情報のシームレスな共有とアクセスが可能になり、患者のケアの効率化が期待されます。
     
    ・テレヘルスと遠隔医療:特に COVID-19 パンデミックの影響を受けて、世界的にテレヘルス(Telehealth)や遠隔医療の普及が急速に進んでいます。シンガポールも例外ではなく、患者は自宅から医師とオンラインで診療を受けることが可能です。これにより、患者の便利さと医療サービスのアクセスが向上しました。
     
  2. 高齢化社会への対応
    アジアの医療機器市場は 30 年までに 2,250 億 US ドル(約 36 兆 1,900 億円)規模になると予想されています。域内の人口は同年までに世界人口の 60%を占め、うち4分の1が 60 歳以上の高齢者となります。シンガポールは域内の中でも特に高齢化が進む国であるため、高齢者向けの医療ソリューションの需要が高まっています。
     
    ・予防医療と早期診断:メドテックの進化は、予防診断と早期診断にも大きく貢献しています。テクノロジーの恩恵を受ける分野の 1 つが画像診断制度の向上です。AI を利用したスクリーン技術やバイオマーカーの開発により、高齢者の疾病リスクの予測や、がんなど症例の早期発見・対策が可能となります。
     
    ・ロボティクスと介護支援装置:ロボティクス技術を活用した支援装置や介護ロボットの開発が進んでいます。これらの技術は、高齢者の日常生活の支援や身体的な介護を効率的に行うことができます
     
    ・データドリブンな健康管理:データ分析と人工知能(AI)を活用した健康管理システムが導入されています。これにより、個別化された健康ケアプランの提供や、医療データのリアルタイムモニタリングが可能になり、高齢者の健康管理が向上、未病や不調の早期発見の一助となっています。

 シンガポールでは、これらのメドテック技術を活用することで、高齢化社会に適応した持続可能なヘルスケアシステムの構築が進められています。政府や企業が積極的にイノベーションを推進し、高齢者の健康と生活の質を向上させる取り組みが行われています。

最後に

 シンガポールのメドテック産業は、政府の支援と強力なインフラにより、アジアにおける主要なハブとしての地位を確立しています。デジタルヘルス、高齢者向けの医療ソリューションなど、今後の成長が期待される分野に注力することで、シンガポールはこれからも引き続き、アジアのメドテックを牽引する存在としての進化が期待されます。技術革新と持続可能性の両立を目指し、シンガポールのメドテック産業は世界に向けてさらなる発展を目指します。



当サイトでは、お客様により適したサービスを提供するため、クッキーを利用しています。お客様には、クッキーを許可するかを選択する権利があります。クッキー許可の選択については クッキーの設定 に進んでください。詳細は、当社の クッキーポリシーを確認してください。

プライバシー設定

お客様には、必須クッキーは選択を解除することはできませんが、必須クッキー以外のクッキーを許可するかを選択する権利があります。

Allow All
同意設定
  • 常にオン

保存