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マレーシアのデジタル経済


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マレーシアのデジタル経済

 こんにちは。アジア・アライアンス・パートナーの柴田です。

 新型コロナウイルス感染症の流行は世界中に様々な影響を及ぼしました。コロナウイルスの前後で日常生活は大きく変わったように思います。

 そんな中で、生活様式の変革に伴い、特に大きな成長を遂げたのがIT業界です。日本国内だけでなく、世界中でテレワークやリモートワークが急速に広がり、人との接触が制限されました。これにより、企業の事業運営におけるITの活用だけでなく、私たちの日常生活にも広くITの導入が進みました。AI(人工知能)やビッグデータといったDX(デジタルトランスフォーメーション)業界に関する話題を耳にする機会も増えてきているのではないでしょうか。ITの重要性の高まりを受けて、東南アジア各国でも自国のIT業界の成長や人材の育成に力を入れています。

 マレーシアも例に漏れず、恩典の付与やビザの優遇など、政府として海外からのIT企業誘致に積極的です。今回は、そんなマレーシアのIT業界に対する政府の施策についてご紹介させていただきます。
 

マレーシアの市場概況

 まずは、マレーシアという国について簡単にご紹介いたします。人口は約3,350万人でASEAN10カ国のうち第6位、全体の約5%を占めます。マレーシアは多民族国家として知られており、マレー系、中華系とインド系が共生しています。

 人口はインドネシアやタイ、ベトナムと比べると小さいですが、2022年の1人あたりGDPは11,972米ドルと、シンガポールとブルネイに次いで第3位に位置しています。富裕層が多いことからも、消費市場としてのマレーシアへの注目度は高いです。

 主要産業としては、長きに渡って半導体産業のハブとしての地位を維持しており、シンガポールとタイに挟まれた好立地から、製造業(特に電機・電子機器)のASEAN拠点として同国にオフィスや工場を構える企業も多くいます。

 また、マレーシアは財団法人ロングステイ財団による「住みたい国ランキング」で、2012年から連続で1位に選ばれている非常に人気の高い国です。大きな理由としては、日本と比べると物価が安い一方で、タイやベトナムなどの国と比べても生活水準が高い点があげられます。また、前述の通り多民族国家であるため、移住者への差別が少なく寛容である点、英語が通じる点も人気の理由です。
 

マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)

 2020年にはマレーシアのGDPのうち22.6%を占めたデジタル経済ですが、2025年までに25.5%を超えると予測をされています。このデジタル経済を促進・支援することを目的として、1996年6月に設立されたのが、通信・マルチメディア省傘下の政府機関であるマレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)です

 MDECはデジタル分野における投資の促進、デジタル・イノベーションを活性化する環境づくり、デジタル・インクルージョンの発信や技術者の育成など同分野に関連する幅広い活動を行っています。

 ここでは、MDECが実施しているプロジェクトや制度についてご紹介いたします。
 

マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)

 MDEC設立当初から実施されているプロジェクトがマルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)です。このプロジェクトは第4代、第7代と2度同国の首相を務めたマハティール元首相が、クアラルンプール及びその近郊地域をアジア版のシリコンバレーにすることを目指し開始した計画です。クアラルンプールの新行政都市「プトラジャヤ」、先端技術都市「サイバージャヤ」、クアラルンプール国際空港(KLIA)、ペトロナス・ツインタワーを核とする商業施設(KLCC)を含むエリアを経済特区として定め、域内でのIT開発を促進するものです。

 プロジェクトの実施に合わせて域内のインフラ整備も行われました。その他にも税制優遇、外国人労働者雇用や外資出資比率に関する規制緩和などにより、外国企業誘致を含めた情報産業の集積・発展を図ったのが同プロジェクトです。
 

MSCステータス

 投資奨励の施策として、条件をクリアした企業には「MSCステータス」が付与され、ステータスを持つ企業には様々な優遇を受けられる枠組みづくりがされました。
 

  • 主な優遇措置
  1. 10年間の法定所得の全額免税
  2. 外国人知的労働者の雇用制限の撤廃
  3. 外資規制の撤廃
  4. インターネットに対する検閲を行わない
     

 MSCステータスを与えられた企業は政府が指定する建物・エリアに事業所を設立することが必須の条件となっております。指定の建物にはクアラルンプールのサイバージャヤ、クアラルンプール・シティ・センター(KLCC)、クアラルンプールタワーなどが含まれています。
 

マレーシア・デジタル(MD)

 2022年7月にイスマイル・サブリ前首相が、上述のMSCの後継戦略として発表したのがマレーシア・デジタル(MD)です。イスマイル前首相は、MDを「絶えず進化するIT環境の変化により順応させ、デジタル国家としての基盤を構築するもの」とし、投資や人材を呼び込み、地場企業や人材のデジタル経済への参画の後押しを目的に立ち上げられました。このMDはMDECと通信マルチメディア省内に設置されたマレーシア・デジタル調整員会(MD-CC)が主導するプロジェクトです。
 

MDステータス

 MDに伴い、1996年から続いていた「MSCステータス」は「MDステータス」へと一新されました。少人数、小規模での操業が多いテック関連企業の実態に合わせ、知識労働者の雇用人数、最低資本金の要件、年間の事業経費額が大幅に緩和された他、特定エリアへの事業所設置の制限が撤廃され、より柔軟な制度となっています。

 2024年2月時点で、MDステータス取得企業は約4,000社にのぼり、うち外国企業が3−4割を占めています。
 

  • 主な優遇措置
  1. 外国人知識労働者の割り当て、雇用パス
  2. 税制上の優遇措置(所得税免除または投資税額控除)
  3. マルチメディア/ICT機器の輸入関税、売上税免除
  4. 競争力のある整備されたインフラの利用(MDサイバーシティ/サイバーセンター入居企業向け)
  5. ローカルオーナーシップ要件の免除によるオーナーシップの自由
  6. グローバルな資金調達、借り入れに対する柔軟性
  7. MDECがMDステータス企業のためのワンストップ機関となる
     

 また、MDが特に注力する分野として以下の9つが挙げられています。

  • デジタルツーリズム
  • イスラムデジタル経済
  • デジタル貿易
  • デジタル農業
  • デジタルサービス
  • デジタル都市
  • デジタル医療
  • デジタル金融
  • デジタルコンテンツ
     

DEランタウ

 MDの初期プロジェクトの1つとして始まったのが、マレーシアのデジタルノマドの拠点化を目指した「DEランタウ」です。マレーシアでは、日本のパスポートを持っている場合、観光目的の滞在であればビザなしで90日間の滞在が可能です。90日を超える滞在をする場合は、雇用パスや一時就労パスなど滞在期間や目的に合わせたビザの取得が必要となりますが、この2つのビザについては、マレーシアの企業に籍を置くことが取得の条件となります。

 DEランタウプロジェクトにより2022年10月から申請が始まったDEランタウ・ノマドパスは、デジタルノマド向けのビザで、これを取得することで、マレーシアに滞在し、オフィスを持たず働きながら生活することができます。滞在期間は3ヶ月から12ヶ月で、更に12ヶ月間の延長が可能ですので、延長期間も含めると最長で24ヶ月間の滞在が可能となります。さらに、本人だけではなく、配偶者や子どもの同伴ができるため、このビザが取得できれば家族揃っての移住を検討することも可能です。また、滞在エリアの指定もないため、国内の好きなところで仕事ができるのがこのビザの魅力です。

 以下が、デジタルノマドビザの申請のために設けられている条件です。

年齢18歳以上
年収年収 USD24,000以上 (約350万円)
業種・IT関連(ソフトウェア開発、UX、UI、クラウド、サイバーセキュリティー、ブロックチェーン、AI・機械学習、データ―関連)
・デジタルマーケティング
・デジタルクリエイティブコンテンツ
・デジタルコンテンツ開発
・デジタル領域関連業務全般
就業形態・デジタルフリーランス(個人事業主契約期間3か月以上の有効なプロジェクトがあること)
・フルタイム、パートタイムのリモートワーカー(企業の従業員だが、物理的にオフィスにいる必要はない)
 

 ITの専門性を持っていることが条件の1つですので、誰でも取得が可能なビザではありませんが、条件に該当する方にとっては、1年を通して温暖なマレーシアで仕事に専念することができるこのビザは、非常に魅力的なものではないでしょうか。

 マレーシア政府としては、このノマドビザが、IT関連の技術を持つ人材に、まずはマレーシアへ来てもらい、その後、将来的に同国で自身の事業を展開、会社を立ち上げるというゴールに向けての第一歩となることを期待しています。
 

最後に

 ここまでご紹介してきたように、マレーシアでは国を上げてIT業界のさらなる発展に力を入れており、外資企業や人材の誘致に非常に積極的な姿勢を見せています。今後、世界的に重要度が高まりもさらなる成長が期待される東南アジアのIT業界ですが、ビジネス面での整備がされているだけでなく、整ったインフラや物価のやすさ、英語が通じる点など、マレーシアには他の東南アジアの国にはない優位性が多くあります。IT企業だけでなく、フリーランサーや個人事業主の方も、事業を行う先としてマレーシアを検討されてみてはいかがでしょうか。



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