こんにちは。アジア・アライアンス・パートナーの柴田です。
食品ロスとは、まだ食べられるにも関わらず食品を廃棄しまうことを指し、世界的に大きな問題になっています。先進国で大量に食品を廃棄する一方、途上国では食料が足りず、飢餓に苦しむ人々が数多く存在しています。
今回は東南アジアでも特に食品ロスに課題を抱えるマレーシアの現状についてご紹介します。
世界の食品ロスの現状
家庭から出る年間食品廃棄量ランキング
順位 | 国名 | 食品廃棄量(トン/年) |
---|---|---|
1 | 中国 | 91,646,213 |
2 | インド | 68,760,163 |
3 | ナイジェリア | 37,941,470 |
4 | インドネシア | 20,938,252 |
5 | アメリカ合衆国 | 19,359,951 |
https://www.unep.org/resources/report/unep-food-waste-index-report-2021
世界自然保護基金(WWF)とイギリスの小売大手テスコが2021年7月に発表した報告書「Driven to Waste」によると、世界で生産された全食品のうち約40パーセントに当たる25億トンの食品が年間で廃棄されているとされています。
また、国連環境計画(UNEP)という、環境問題に対する活動を支援する機関が発表したレポートによると、2021年に家庭から出た食品ロスの総量は9億3,100万トンでした。同データによると、世界の食品ロスの61%が家庭から排出されており、外食産業の26%、小売業の13%と続きます。
レポート内では家庭で出る食品ロスの多い国のランキングも掲載されており、上位5カ国は右の表の通り人口の多いが占めています。そして日本は、このランキングで14位と高順位に位置しています。6位以降も含めランキング上位にはアジアやアフリカの国々が多くランクインしています。
その国が途上国か先進国かによって、なぜ食品ロスが生まれるか、という背景が異なります。
日本やこの記事で取り上げるマレーシアでは、下の先進国における食品ロスの要因が該当します。
- 途上国:収穫技術の低さや、厳しい気候下での食品の貯蔵が困難といった理由から、食品の生産や加工の段階での食品ロスが多い。
- 先進国:先進国では、生鮮食品の外観を重視する「外観品質基準」が強いことや、小売店での大量陳列、食品を簡単に捨てる余裕があることから加工、卸小売、外食、家庭の段階での食品ロスが多い。
この食品ロスに対する世界的な問題意識は高く、SDGs(持続可能な開発目標)の中でも、17の目標の内の目標12にて「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる。」という項目が世界的な共通の目標、ターゲットとして挙げられています。
マレーシアが抱える食品ロス問題
それでは、上記の世界の概況を踏まえた上で、マレーシアの現状についてお伝えいたします。
前述の食品ロスのランキングにおいてマレーシアは全体の44位、ASEANの中では6位と順位はそれほど高くありません。ただ、マレーシアの人口が約3,260万人と多くないため、これがこの全体のロス量に影響していると考えられます。
家庭から出る個人食品廃棄量データ
国名 | 一人当り食品廃棄量 (kg/人/年) | 食品総廃棄量 (トン/年) |
---|---|---|
マレーシア | 91 | 2,921,577 |
カンボジア | 86 | 1,423,397 |
インドネシア | 77 | 20,938,252 |
ミャンマー | 86 | 4,666,125 |
フィリピン | 86 | 9,334,477 |
シンガポール | 80 | 465,385 |
タイ | 79 | 5,478,532 |
ラオス | 86 | 618,994 |
ベトナム | 76 | 7,346,717 |
ブルネイ | 80 | 34,742 |
https://www.unep.org/resources/report/unep-food-waste-index-report-2021
同レポートには個人の食品ロス量についてもデータが記載されていおり、その数字を見ると、マレーシアは他のどのASEANの国よりも高い数字となっています。
マレーシアでは、1日に30,000トン以上の一般廃棄物が処分されており、そのうち食品廃棄が約16,000トンと最も大きな割合を占めています。これは、人が1日3回の食事をすること仮定した場合、約1,200万人の空腹を満たすのには十分な量です。
この約16,000トンの食品廃棄の20%は、廃棄時にまだ食べられる状態のまま廃棄されているのが現状です。食品の廃棄が最も多いのが一般家庭で全体の38%を占めます。それに続いて、生鮮市場とナイトマーケットが24%、フードコートやレストランが23%、ホテル7%となっています。
マレー系、中国系、インド系などが暮らす多民族国家であるマレーシアでは、宗教や伝統行事にまつわる祭日が多く、正月と一言で言っても、西暦の新年、中国の旧正月、イスラム暦の新年、ヒンドゥー正月と大きなものだけで4回もあり、それぞれの民族で祝われます。また、イスラムのラマダン(断食)明けや犠牲祭、キリスト教のイースターやクリスマスなど、民族を超えて行うイベントでもごちそうが振る舞われプレゼントもやり取りされます。そういったイベントの度に、食べきれないほどの盛大なごちそうを用意し歓迎をする習慣も、家庭からの食品の廃棄が多い理由とされています。実際に2018年には、ラマダン中は食品廃棄が15~20%増加する、という数字もでています。
食品を含む国内のゴミの廃棄量は人口の増加に伴い年々着実に増えており、食品を含むほとんどの廃棄物は埋め立てによって処分されています。
マレーシア国内には現在、170以上の埋め立て処理場が存在しています。環境の専門家によると、このままゴミ廃棄量の削減のための対策を何も施さなければ、2050年には埋め立てのスペースがなくなると予測をしています。食品を含む廃棄物の処理も、食品ロスの解決が喫緊の課題である理由の1つです。
食品ロス問題に対する政府の動き
この食品ロス問題に対し、マレーシア政府では2019年から「フードバンク・マレーシア・プロジェクト」を始動しています。このフードバンクというのは、世界的にも行われている活動です。
マレーシアの取り組みについてお話をする前に、まずはフードバンクについてご紹介いたします。
フードバンクとは
一般社団法人全国フードバンク推進協議会のWEBサイトにて、フードバンクは、「安全に食べられるのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で流通煮出すことができない食品を企業などから寄贈していただき、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する活動」と紹介されています。
アメリカでは1967年、フランスでは1984年からフードバンクが設立されており、他欧米の国をメインに世界各国で行われている活動です。日本でも複数団体が活動していますが、国内の認知度はまだそれほど高くありません。
マレーシアにおけるフードバンク活動
マレーシアでも2008年頃からフードバンク活動を行う団体が設立され始めており、先駆的な団体の1つであるKechara Soup Kitchenでは、路上生活者や困窮者支援に取り組み、首都クアラルンプールのほかペナン州やジョホール州で無料食堂を運営するなどといった活動をしています。
その他複数の団体が活動をしていますが、マレーシア国内にてフードバンク活動が知られるようになったのは最近のことで、コロナの流行に伴うロックダウンにより貧困を抱えた方への支援策として盛んに行われ、更にその認知度を上げました。
フードバンク・マレーシア・プロジェクト
上述の通り、2008年から一部の非営利団体や州政府レベルで取り組まれていたフードバンク活動ですが、食品ロス問題の深刻化、低所得層の貧困の解決策の1つとして、マレーシア政府が2019年から「フードバンク・マレーシア・プロジェクト」を開始しました。
ベースとなる仕組み自体は、様々な理由で廃棄されるパンや野菜、果物などをスーパーマーケットなどから提供をしてもらい、支援が必要な人へ配布するという従来のものですが、マレーシアの国の事情を反映しているのが、扱う食品が、ムスリムが多いことからイスラム教の戒律によって食べることが許されているハラールフードである、という点です。
2018年8月にペナン州で実施された先行プロジェクト以降、2020年の政権交代後も引き継がれた同プロジェクトを通し、2020年12月までに延べ62万3356世帯が支援を受けています。現在も同プロジェクトは継続されており、食品問題の解決だけでなく、コロナの影響で拡大した貧困層への支援策としても機能しています。2020年2月には、より効率的な食料の配布を目的に、首都クアラルンプールの郊外に、配送センターも設立されました。
同プロジェクトには、提供者としてスーパーマーケット大手のテスコ、イオンBIG、ジャイアント、イオン、そしてブルマン、プリムラビーチ、インピアナなどのホテル・グループが参加しています。また、食品を配布する役割は、前述のKechara Soup Kitchenグループなどの非営利団体が担当しています。
食品提供者保護法(FOOD DONORS PROTECTION ACT 2020)
2020年3月には、企業や店舗がこのプロジェクトへ参加がしやすくなるような条件整備の一環として、食品提供者保護法(FOOD DONORS PROTECTION ACT 2020)が成立されました。
その内容は、以下の項目を証明できない限り、寄付をした食品を食べたことにより対象者が体調不良を訴えたり、死亡した場合の食品提供者の民事責任を問わない、というものです。
- 食品提供者の過失、または故意の違法行為に起因し対象者が障害、病気、死亡した場合
- 食品提供者が食品安全、衛生に関連する法規制を遵守していない場合
- 提供された食品が、提供時点あるいは配布時点で安全でなかった場合
- 食品の寄付、配布が適切な状態で行われていなかった場合
これにより、食中毒が発生した場合の提供側が訴えられるリスクが軽減され、活動が活発化することを期待されています。
最後に
マレーシアの同問題への関心は年々高まっており、家庭で出る生ゴミを堆肥化させる装置を開発、販売することにより同問題へ取り組むスタートアップ企業なども出てきています。
今回はマレーシアに焦点を当てて取り上げた食品ロスの問題ですが、これはもちろんマレーシアだけの問題ではなく世界全体で解決に取り組むべき大きな問題です。東南アジア全体でも、今後人口の増加に伴い、食品ロスの量も比例して増えていくものと考えられます。こういった問題に、どう取り組んでいくか、地球に優しいソリューションが提供できるかどうかにビジネスチャンスがあるかもしれません。