こんにちは。アジア・アライアンス・パートナーの辻です。
先日、バンコク中心部の繁華街に久しぶりに出かけたのですが、外国人旅行客で大いに賑わっていて、コロナが明けたことを実感しました。そこで多く目にしたのが、大麻を販売する店舗や屋台。タイでは大麻草の一種であるヘンプの栽培・加工・販売が解禁されていますが、実際にはどこまでが許されていて、何が禁止されているのでしょうか。今回はタイの大麻解禁について詳しくお伝えします。
![hemp-thailand](https://aap-jpromo.com/wp-content/uploads/2023/04/hemp-thailand.jpg)
注意:タイでの大麻解禁は医療目的等に限定されており、娯楽目的での使用は禁止されています。また、日本では大麻取締法において、大麻及びその製品の所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ、処罰の対象となっています。同法は国外犯処罰規定が適用され、タイを含む海外に居住する日本人が大麻の栽培、輸出入、所持、譲渡等を行った場合には、同様に処罰対象となることがあります。
政府主導による産業化へ向けた栽培の推進
タイ政府は2019年以降、医療・研究を目的とした大麻の利用・栽培を段階的に合法化し、2021年には、食品・飲料・化粧品での商業利用を許可、2022年6月には大麻を禁止薬物のリストから除外し、タイはアジアで最初に大麻を解禁した国となりました。タイ保健省は医療用大麻の栽培及び加工の推進を重点政策の1つと掲げ、「地域経済のが発展することにより、新型コロナウイルスの影響によって受けた経済的ダメージからの回復を図る1つの選択肢」と家庭での栽培を奨励、保健大臣がタイ全土の世帯に大麻草100万本を配布すると発表しました。ただし、これは医療用目的の栽培に限定され、THC(高揚感や感覚を鋭敏にする向精神作用をもつ成分)含有量が0.2%未満のヘンプのみの配布となります。
ヘンプとは?
ヘンプ(Hemp)は麻科の植物で、大麻の一種に分類されます。チベットや中央アジアが主な原産地とされ、古くから栽培されてきました。ヘンプは根、茎、葉、種子といった部位が産業目的で使うことができ、茎は衣類や紙などの原料、種子は食品や油、化粧品などの原料として使用されています。
産業としてのヘンプ栽培
2021年1月よりタイ政府は、①政府機関の命令に応じた使用 ②伝統文化・生活文化において繊維 としての使用及び家庭のみでの使用(栽培の場合、1 家庭につき1ライ(1,600 ㎡)以下であれば栽 培が可能)③商業目的または工業目的での使用④医療目的での使用⑤学問・分析・研究・品種改 良を目的とした使用 ⑥認証種子として生産における使用、という 6 つの目的であれば、ヘンプの生産・輸 入・輸出・販売・所持を許可しています。タイ政府は新たな換金作物としてヘンプの栽培を推進し、2027 年までにASEANにおけるヘンプ産業の中心地となることを目指しています。
タイ政府が大麻を解禁するまでのタイ国内でのヘンプの使用については、タイ民芸文化支援施設の編織作業のための使用に限られており、商業・工業目的での使用は許可をされていなかったため、国内のヘンプ市場はまだ大きくありません。例をあげると、タイ北部の民族であるモン族は、古くから麻を民族衣装の布地に使っており、このモン族を支援するため、ロイヤルプロジェクト財団及び高地研究開発機関(HRDI)では、2005 年からヘンプの栽培、加工に関する研究、開発を行っていました。また、2014 年には上記の同財団・機関がタイの北部のターク県に面積150 ライ(240,000 ㎡)の土地を利用してヘンプの栽培を推進していたことで、収穫量が急激に伸びました。このヘンプを製品化するための衣類や布地などの半製品の輸入額が2015 年には約471 万バーツとなり、地方を活性化する産業として注目を浴びました。
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タイの大手調査機関クルンシー・リサーチは、ヘンプを応用できる産業である「1.飲料産業、2.食品産業、3.医薬品・サプリメント産業、4.服飾産業、5.シャンプーやスキンケアなどパーソナルケア製品・化粧品産業」の5つの産業の今後の市場規模を予測しました。
クルンシー・リサーチの予測によると、2021年は、ヘンプを原料とした飲料産業の市場規模は2億8千万バーツであったと予測されていました。次いで、食品産業の市場規模が2億 4千万バーツ、医薬品・サプリメント産業が5千万バーツ、服飾産業が3千万バーツと続きます。パーソナルケア製品・化粧品産業については、まだ製品開発段階にあり、今後の展開が注目されます。上記の5つの産業全体では、約6億バーツであったと予想されています。そして、2025年のタイのヘンプ市場規模は、157億7千万バーツで、その年間平均成長率 (CAGR)は126%と見込まれています。
今後の問題点
昨年6月の大麻解禁からまだ1年にも満たないですが、国内では大麻解禁による問題点も出始めています。タイ保健省によると、大麻の使用により記憶障害などの体調異変があった人の数が解禁前と比べて4倍に増えるなど、緩い規制による乱用が問題視されています。また、外国人観光客が公共の場で大麻を吸引している姿もよく目にするようになりました。これに対してタイ当局も合法化後に無秩序に広がった大麻販売を当局の管理下に置くべく、販売店の登録の厳格化や監視を強めています。大麻の規制を巡っては連立政権内部でも対立が深まっており、今年5月に予定されている総選挙の大きな争点になるとみられています。
多くの魅力と問題を抱えたタイの大麻産業ですが、今後規制が強まるのか、さらなる解禁へと向かうのか、今後も動向を注視していきたいと思います。
注意:タイでの大麻解禁は医療目的等に限定されており、娯楽目的での使用は禁止されています。また、日本では大麻取締法において、大麻及びその製品の所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ、処罰の対象となっています。同法は国外犯処罰規定が適用され、タイを含む海外に居住する日本人が大麻の栽培、輸出入、所持、譲渡等を行った場合には、同様に処罰対象となることがあります。